歯科医師コラム

教えて!「協会けんぽ」と「歯科医師国保」の違い

「協会けんぽ」と「歯科医師国保」ってどう違うんですか?と質問されることがよくあります。お給料から社会保険料がごっそり引かれていると嘆きながらも、社会保険の事って今一つよくわからないという方も多いはず。今回は特に歯科医院が加入されている「協会けんぽ」と「歯科医師国保」についてお話致します。

「国民皆保険制度」とは

日本には「国民皆保険制度」というものが導入されています。

国民皆保険制度

全ての人が公的医療保険に加入し、全員が保険料を支払うことでお互いの負担を軽減する制度のこと

そのため持病があって通院回数が多い人でも、入院や手術により医療費が高くなってしまう人でも、定められた負担割合で医療を受けることができます。

日本人にとっては、当たり前のように思われますが、アメリカなどでは、こういった制度が導入されていないため、個人で民間の医療保険に加入していないと医療費が高額になる可能性があります。

誰でも比較的安い金額でレベルの高い医療を受けられるという点は、日本の最大の特徴であり、大きなメリットとも言えます。

「社会保険」とは

お仕事を探していると、「社保完備」という文字を求人票で見かけられた方もおられるでしょう。そもそも「社保完備」とはどういうことなのでしょうか?

【社会保険(健康保険)】とは、「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の5つの保険制度の総称です。狭義では、健康保険と厚生年金保険、介護保険をまとめて【社会保険】と呼び、雇用保険と労災保険をまとめて【労働保険】と呼ぶこともあります。

そのため、求人票などで、「社保完備」とあれば、「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」これら5つの社会保険すべてに加入できるという意味だと思って下さい。

では書かれていない場合は、加入できないの?と不安になってしまいますよね。そもそも、この5つの中でも【労働保険】と言われる、「雇用保険」「労災保険」は、労働者を雇った場合、加入する義務があります。(労災保険は、1週間の所定労働時間が 20 時間以上であり、かつ 31日以上の雇用見込みがあれば必ず加入しなければなりません。)

要件を満たしている場合は、必ず加入しなければいけないため、それほど取り立てて「加入できます」と主張するほどの事はありません。

しかしながら、「健康保険」「厚生年金保険」というのは、加入義務ではありませんので、医院によっては加入していないという場合もあります。特に「厚生年金保険」は加入していないという医院もありますので、確認することをお勧めします。

 

「社会保険(健康保険)」と「国民健康保険」の違い

社会保険(健康保険)

社会保険(健康保険)は、以下の2つに分類されます。

「健康保険組合」

「全国健康保険協会(協会けんぽ)」

「健康保険組合」・・・常時700人以上の従業員がいる事業所や同種・同業で3,000人以上 

           従業員が集まる事業所が、厚生労働大臣の認可を得て設立すること

           ができます。

「全国健康保険協会(協会けんぽ)」・・・健康保険組合に加入していない被保険者を対象

                    としています。中小企業の多くは「協会けん

                    ぽ」に加入しています。

国民健康保険

「国民健康保険」は、以下の2つに分類されます。

「市町村管轄の国民健康保険」

「職域国民健康保険」

「市町村管轄の国民健康保険」・・・会社に勤めていないフリーランスや自営業、無職、年

                 金受給者など、社会保険やその他の医療保険制度に加

                 入していない人を対象とした保険

「職域国民健康保険」・・・国民健康保険法に基づいて運営され、医師・弁護士・土木建築

             業者・理美容師など地域の同業者が設立する国民健康保険組合

             が行う組合国保

 

歯科でよく耳にする「歯科医師国保」は、歯科医師会が管轄する職域国民健康保険の一種です。

歯科医院の場合は、社会保険の「協会けんぽ」か、国民健康保険の「歯科医師国保」のどちらかだと思って下さい。

たまに、健康保険はご自身で入って下さいと言われる場合があります。その時は、ご自身で「市町村管轄の国民健康保険」に入る必要があります。

 

「協会けんぽ」と「歯科医師国保」どちらがお得?

この質問はよくされるのですが、一概にどちらがお得と言えるものではありませんし、その歯科医院がどちらに加入しているかによりますので、個人でどちらかを選べるわけではありません。

保険料について

保険料について、「協会けんぽ」と「歯科医師国保」を比較してみましょう。

「協会けんぽ」

保険料は収入に応じた定率負担。そのため収入が低い人は保険料も少なくなりますし、収入が多い人は保険料も高くなります。収入に応じて保険料も高くなるということです。また、賞与についても賞与額およそ5%が保険料として発生します。

「歯科医師国保」

保険料は定額負担となっています。要するに、 所得にかかわらず保険料が一律という事です。また、賞与についても保険料負担はありません

つまり一言でいうならば、給料が高ければ「歯科医師国保」の方が有利で、低ければ「協会けんぽ」の方が有利と言えます。

しかし、「歯科医師国保」は定額負担と言えども、「院長や一部被保険者を除く」という条件があるようですし、給料の高低の分岐点などはご自身の条件をもとに保険料を算出し、比較して見られると良いと思います。

保険料の負担について

保険料の支払い負担に「協会けんぽ」と「歯科医師国保」を比較してみましょう。

「協会けんぽ」

保険料は歯科医院と従業員の半々で負担しています。

「歯科医師国保」

歯科医院に労使折半の義務がないため、基本的に保険料は従業員の自己負担という事になります。

一言で言うなら、従業員にとっては「協会けんぽ」の方がお得歯科医院の院長(経営側)にとっては、「歯科医師国保」の方がお得という事になります。

なぜなら、「歯科医師国保」の場合、保険料が「全額個人負担」になるため、お給料が少ない場合、「協会けんぽ」と比べて自己負担金が高くなる可能性があるからです。

しかし、従業員にとってネガティブ要素になる可能性があり、採用に影響する場合もあるため、労使折半の義務はありませんが、歯科医院側で何割か負担してくれる医院もあります。

扶養について

独身者で扶養している人がおられない場合もありますが、既婚者で奥様やお子さん、またご自身の親を扶養している方もおられます。

「扶養」という観点から比較してみましょう。

「協会けんぽ」

配偶者や三親等以内の親族も加入することが可能。

「歯科医師国保」

そもそも「扶養」という概念がありません。そのため、被扶養者がいる場合、世帯に属する加入者数分の保険料が必要です。

つまり、扶養家族がたくさんいる場合は、「協会けんぽ」の方が有利単身者には「歯科医師国保」の方が有利と言えます。これまで「協会けんぽ」に加入していたが、転職をして「歯科医師国保」に加入することになった場合、保険料の負担が増す可能性があるということです。

出産手当金・傷病手当金について

「協会けんぽ」の場合は、

出産手当金

出産予定日42日前から出産後56日まで

傷病手当金

休職期間中1年6ヶ月まで

上記の期間中、休職前の給料の3分の2が支給されます(上限あり)

 

「歯科医師国保」の場合は、任意給付(組合員が入院した場合に、申請をすると受け取れるもの)でこのような保障になっています。

傷病手当金 1種組合員 入院一日につき 4,000円
2種組合員 入院一日につき 1,500円
3種組合員 入院一日につき 1,500円
出産手当金 産前6週間、産後8週間において業務に服さなかった組合員
一日につき 1,500円

「歯科医師国保」は金額が固定しているため、収入によっては「協会けんぽ」の方がお得な場合もあるようです。

社会保険について Q&A

「国民皆保険制度」とは何ですか?

「国民皆保険制度」は、全ての人が公的医療保険に加入し、お互いの負担を軽減するために保険料を支払う制度です。

「社会保険」とは何ですか?

「社会保険」とは、「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の5つの保険制度の総称です。

「労働保険」とは何ですか?

「労働保険」は、雇用保険と労災保険の2つの保険制度を指すことがあります。雇用保険は労働者を雇った場合に加入する義務があります。

「協会けんぽ」と「歯科医師国保」の保険料の違いはありますか?

「協会けんぽ」の保険料は収入に応じた定率負担であり、収入が高ければ保険料も高くなります。「歯科医師国保」の保険料は定額負担で、所得に関係なく一律です。

「協会けんぽ」と「歯科医師国保」の扶養について違いはありますか?

「協会けんぽ」では配偶者や三親等以内の親族も加入することが可能ですが、「歯科医師国保」には「扶養」という概念が存在せず、被扶養者がいる場合は世帯に属する加入者数分の保険料が必要です。

まとめ

いかがでしたか? そもそも「協会けんぽ」か「歯科医師国保」かは、転職先の医院がどちらに加入しているかによるもので、個人で選ぶことは出来ません。よく、「協会けんぽ」と「歯科医師国保」どちらがお得ですか?と聞かれることがありますが、それは個々の条件によって違うため、一概に決めつけることは出来ません。気になる方はご自身の給与や条件で検証されると良いかと思いますが、どちらもメリット・デメリットありますので、総合的にご検討されることをお勧めします。

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