矯正を学びたいという女性ドクターが最近増加しています。マウスピース矯正の普及により歯列矯正を取り巻く環境が数年前と変化しているのが理由だと思われます。
目次
歯列矯正を取り巻く環境の変化
「矯正治療の歴史」と検索すれば、これまでの矯正治療の流れを詳しく知ることができますが、ここでは、実際の現場がどのように変化してきているかを、個人の経験上でお話させて頂きます。
矯正歯科医院
もともと「歯科」の中でも「矯正歯科」は別の扱いをされていました。そのため、街で見かける「(一般的な)歯科医院」では矯正治療はされておらず、矯正が必要な患者さんに対しては、「矯正歯科医院」に紹介状を書くという流れでした。
歯科医院で矯正治療日
私がコンサルタントを始めた10年位前は、「(一般の)歯科医院」で、月1~2日だけ矯正認定医の先生を雇用し、その日だけ矯正日を設けるという歯科医院が増え始めていました。
当時のお給料の相場は、このくらいだったと記憶しています。
(一般の)歯科医師の日給 3~4万円
矯正の歯科医師の日給 8万円
矯正認定医の日給 10万円
矯正認定医の先生は複数の歯科医院で、月1~2日勤務されていたため、かなり高額年収にになっていた方も多いと思います。しかし、患者を、矯正歯科医院に紹介するくらいなら、矯正医の先生を雇用しても自身の医院でやりたいと考える院長も多かったようです。
当時矯正治療をできるのは、矯正認定医(矯正の専門知識のある人)だけでしたから、見合った金額だったのでしょう。
舌側矯正(裏側矯正)が出来る矯正医
(一般の)歯科医院で矯正治療が出来ることにより、少しづつ「矯正」の認知度も上がっていきました。それまでは、「矯正」というと子供の歯列矯正が一般的でしたが、認知度が高まることによって、子供のうちに矯正をしなかった成人が矯正に興味を持ちだしました。しかし、矯正治療は、歯の表面にブラケットを装着するため、やはり目立つ装置は抵抗があるという理由から矯正治療に踏み切れない患者さんも多くおられたのです。そこで注目されだしたのが舌側矯正(裏側矯正)です。しかし、高度な技術が必要だったこともあり、矯正認定医の中でも、舌側矯正が出来る人となると、需要はより高くなりました。
「床矯正」を取り入れる医院増加
これまでは、形は変われど、「矯正治療=矯正専門の歯科医師」という構図は決まっていました。しかしこの「床矯正」という方法が注目を浴びてから、この構図は少しづつ変化していきます。
おそらく、矯正の先生に月1~2日来てもらって、「矯正日」を設けることのデメリットを感じる院長先生も出てきたのかもしれません。逆戻りして、矯正は矯正歯科医院に紹介するという逆もどり現象も起き始めていました。
1. 矯正の先生を雇用するにあたり、日給が高い。
2. 院長も勤務医も矯正の知識がないため、患者さんが矯正日以外に来院された
時に対応できない。
3. 矯正の先生が退職となった場合、引き継げる人が見つからない。
矯正治療は長期間になるため、一度始めてしまうと簡単に辞めれないことが大きな問題でした。そのため矯正の先生は自身が辞めるときは後任を必ず連れてくることという契約を交わしている医院もありました。
そこに出てきたのが、「床矯正」です。下顎の成長を利用して顎や歯並びを整える方法が注目されるようになりました。これは矯正医でなくても対応ができるため、簡単な矯正は「床矯正」で対応し、「床矯正」で対応できない矯正のみ、矯正歯科医院に紹介をするという方法を取られる歯科医院が増えました。
「床矯正」により、矯正認定医(矯正の専門の歯科医師)ではない歯科医師も少しづつ矯正治療をするようになりました。矯正認定医の需要が以前よりも減ってきました。
マウスピース矯正の普及
その後、マウスピース矯正が急速に普及し始めます。当時は色々と問題も山積しており、賛否両論でしたし、矯正認定医の先生はほとんどが反対派でした。私も、矯正学会のお偉い方と面談をさせて頂いた時に、マウスピース矯正なんてとんでもない!と大変な剣幕で言われたのを覚えています。そもそも矯正認定医が非常勤で一般の歯科医院で矯正治療をすることにも大反対をされており、矯正治療はあくまでも矯正専門医院で矯正認定医がするべきだと主張されていたのが、2018年でしたので、6年ほど前ということになります。
ここ5年ほどで、マウスピース矯正はもう誰が何と言おうと不動の地位となりました。もちろん、マウスピース矯正が、ブラケットを装着する矯正治療に取って変わったわけではありません。矯正を希望される患者さんが歯科医師の話を聞いて、どちらを選ぶかという選択肢ができたということです。
また日本国民にも歯の矯正は身近なものとなり、希望される方が増え続けています。
矯正を希望する歯科医師が増加中
以上のような社会情勢に伴い、矯正治療をしたい、学びたいという歯科医師が増えており、このような相談を受けることが多くなりました。
- マウスピース矯正(インビザライン)を学びたい
- マウスピース矯正(インビザライン)の歯科医師として働きたい
- ワイヤー矯正を学びたい
- インビザラインをずっとやってきたが、もう一度ワイヤー矯正を学び直したい
矯正治療が一般的になってきたことによって、これまで矯正治療は矯正認定医の先生が対応することが多かったのですが、一般歯科医師でも矯正をやりたいという人が増加しています。また、将来開業を予定されている先生であればインビザラインは当然習得しておく必要があります。
中には、インビザラインの症例はたくさん経験してきたものの、経験したからこそもう一度矯正の基礎を学び直したいと言われ、ブラケット矯正をやりたがる先生もおられます。
前出したように、マウスピース矯正がブラケット矯正に取って変わったわけではないので、これからは「マウスピース矯正」と「ブラケット矯正」の違いや患者さんの状況によってより良い治療法をご提案できることが歯科医師に求められる重要なスキルとなってくることでしょう。
矯正治療は女性歯科医師に向いている?
もちろん矯正治療をすることに男性歯科医師・女性歯科医師の違いは全くないのですが、比較的、矯正治療をやりたいという人は女性歯科医師の方が多いように感じています。おそらくその理由としては、
・ 矯正治療はどちらかというと、審美的要素が強いから
・ 一般治療のようにスピードや緊急性を求められないから
この2点ではないでしょうか。
では、本当に矯正治療は女性歯科医師に向いているのかということですが、上記の2点を見れば女性に向いている気がしますが、以下のような側面があることもご理解下さい。
・ 小児の対応も多くなるため、学校帰りの夕方以降や、土日の勤務が必要
・ 一般治療と違って、矯正は治療期間が長くなります。女性の場合、出産・子
育てとライフイベントがたくさんあるので、休職する可能性も男性より高く
なります。スタート時期の違う患者さんを複数担当することによって、矯正
の終了時期がまちまちになり休職しづらいという状況になります。
「歯科の転職エージェント」についてQ&A
マウスピース矯正が普及する前は、一般の歯科医院での矯正治療は限られており、専門の矯正歯科医院に紹介されることが一般的でした。
マウスピース矯正の普及により、矯正治療へのアクセスが広がり、一般歯科医院でも矯正治療が行えるようになったことが、歯科医師に矯正治療を学びたいという動機を増加させました。
マウスピース矯正の普及により、矯正治療の選択肢が増え、患者がブラケット矯正とマウスピース矯正の中から選ぶことができるようになりました。
矯正治療は審美的要素が強く、一般治療よりもスピードや緊急性を求められないため、女性歯科医師に向いているとされることがあります。
マウスピース矯正の普及により、歯科医師にはブラケット矯正とマウスピース矯正の違いや、患者の状況に応じて最適な治療法を提案できるスキルが求められるようになりました。
まとめ
如何でしたか? ここ10年もしない間に、矯正治療は大きく変化しています。それに伴い、矯正治療をやりたいという歯科医師も増加中です。