歯科医師が転職を考える際に、給与面、勤務条件、スキルアップなど、さまざまな要因が挙げられます。ここでは何がその動機となるのかを一つ一つ解説します。
個人的環境の変化による転職
個人的環境の変化による転職は主に女性の歯科医師に多いといえます。
結婚・出産・ご主人の転勤による転居などによって、自分の意思に反して転職しなくてはいけない状況になることが考えられます。
・結婚による転居
・家事との両立で、常勤から非常勤という勤務体制を変更する
・妊娠・出産による休職もしくは退職。
・子育てによる時短勤務や非常勤勤務。
・ご主人の転勤による転居
などが考えられます。
ただ、ここ数年でも変化が見られ、結婚や出産による退職というのは減少しているように思います。結婚しても勤務を継続され、産休育休を利用しながら仕事に復帰していく人が増えています。やはり女性の活躍を国が推進しており、時短勤務など労働環境の改善がされていることと、託児所・保育園などの充実により意識の変化があるようです。
とはいえ、独身の頃の様に、常勤で週5勤務するという人は少なく、非常勤で週2~3回、17時までの時短勤務という勤務体制で仕事を継続されている方が多いのではないでしょうか?その勤務体制でも可能な歯科医院への転職というのは増加しています。
スキルアップのための転職
日本でも「終身雇用」が崩壊したことにより、転職に対する抵抗がほとんどなくなりました。とはいえ、歯科医師の場合、まったく違った職種に転職する人はほとんどおられないため、現実的には勤務先を変えるという形での転職となります。
歯科医院と言えども、それぞれ特徴があります。たとえば・・・
・保険診療をメインにしている歯科医院
・自費診療に重きを置いている歯科医院
・新卒や若手ドクターの教育に力を入れている歯科医院
・経験豊富なドクターが自身のスキルを磨くことに力を入れている歯科医院
といったように、一見同じ歯科医院に見えても、突き詰めてみると少しづつ違いがあるのです。こういった違いを求めてキャリアアップのために転職をするのが、歯科医師の転職となります。
一番ポピュラーと言えるのは、「保険診療から自費診療」へのスキルアップです。
まず、新卒と言われる臨床研修医明けの先生が、最初に勤務されるのは
・保険診療をメインにしている歯科医院
・新卒や若手ドクターの教育に力を入れている歯科医院
であり、その次の転職としては、
・自費に重きを置いている歯科医院
・経験豊富なドクターが自身のスキルを磨くことに力を入れている歯科医院
ということになります。
給与アップのための転職
「給与アップのための転職」は「キャリアアップのための転職」と似ています。経験を重ねるとスキルもアップしていきますので、キャリアアップということは給与アップということに繋がります。
ただ、同じ職場にいても昇給制度がありますので、わざわざ転職をしなくても給与はアップしていくものですが、そこはやはり勝負をかけて、昇給以上に給与アップをしたいという人がこの転職をすることになります。
また、一概に「キャリアアップ=給与アップ」ということにならない場合もあります。これまで保険診療で経験を重ねてきた先生が、自費診療を学びたいという場合です。保険診療の治療スキルを活かしながら、セミナーなどで自費診療を習得し、それを実践する場を希望するという場合は、給与アップにつながりますが、保険診療をほとんどしていない歯科医院の場合、これまで培ってきた保険診療のスキルを活かすことができないわけですから、ほとんど自費診療を学ぶためだけとなります。その場合は、これまでよりも給与がダウンしてしまう場合もあります。
そこは、給与よりも治療のスキルアップと考えたいところですが、このくらいの経験になってくると、家族が出来ている人も多く、給与ダウンというのはなかなか受け入れがたい状況かと思います。
ミスマッチによる転職
先に上げた、「キャリアアップの転職」は経験に応じて行われるものですが、皆がこういった順調な道を進むとは限りません。そこで「ミスマッチによる転職」ということも出てきます。
これは要するに、新卒と言われる研修医明けの先生が、間違えて、「 自費に重きを置いている歯科医院」や「経験豊富なドクターが自身のスキルを磨くことに力を入れている歯科医院」に入職してしまった場合などがその例と言えるでしょう。
また歯科医院にも雰囲気やキャラクターがあり、その雰囲気やキャラクターと先生自身の持ち合わせるものが合致しないと「ミスマッチによる転職」となる場合も多くあります。
転職のイメージ
ひと昔前までは、「転職」という言葉に悪いイメージを持たれる方も多かったのですが、今や「転職」は当たり前になってきました。しかし、「転職」と言っても良いイメージの転職と、悪いイメージの転職がありますので、そこは気をつけた方が良いかと思います。
例えば・・・
2018年 3月 初期研修終了
2018年 4月 ○○歯科医院 入職
2018年12月 〇〇歯科医院 退職
2019年 1月 △△歯科医院 入職
2019年10月 △△歯科医院 退職
2020年 1月 ××歯科医院 入職
このような経歴です。いくら「転職」の時代と言えども、期間が短すぎます。最初に入った歯科医院も2回目に入った歯科医院も1年も続いていないということは、
と思われてしまいます。
例えば、○○歯科医院が1年以内に辞めることになっても、次の△△歯科医院が3年続いていれば、
という「ミスマッチ転職」として理解してもらえますが、1年以内の転職を複数回重ねると不信感が出てきます。
また実際にこのような経歴の人がおられました。
2018年 4月 ○○歯科医院 入職
2020年3月 〇〇歯科医院 退職
2020年 4月 △△歯科医院 入職
2022年3月 △△歯科医院 退職
2022年 4月 ××歯科医院 入職
このようにきれいに2年毎に転職を繰り返している人です。本人は2年毎に「キャリアアップ転職」をされていたようですが、この経歴を見た歯科医院が
という結果になりました。確かにどう見ても2年で退職するであろうと思えるような履歴書だったので、このような結果になることはやむ負えないでしょう。
また、こういう方もおられました。
2000年 4月 ○○歯科医院 入職
2018年3月 現在に至る
要するに、18年も同じ職場におられる方でした。一見、同じ職場で長く勤務されて素晴らしい経歴だと思われるかもしれませんが、逆に今の時代、
と面接先の院長が言われました。
働きやすい職場だったのか、我慢強い人なのか、はたまた転職のパワーを持たない意欲に欠ける人なのか・・・悩ましいところですね。
しかし、同じ職場と言えども、これはいかがでしょうか?
2000年 4月 医療法人 ○○会 ○○歯科医院 入職
2008年4月 医療法人 ○○会 △△歯科医院 分院長に就任
2012年3月 現在に至る
この経歴の場合、医療法人○○会には12年間在籍していることになりますが、8年目に○○歯科医院の勤務医から、△△歯科医院の分院長にキャリアアップしています。
と、好印象を持ってもらえます。
転職のタイミング
これは、その歯科医院の規模や内容にも関係するので、一言では言えませんが、基本的には3~5年というところでしょうか? 正直3年では少し短いように思えるのですが、歯科医師の場合、開業なども考えると5年~10年というのはなかなか難しいかもしれません。開業せずに一生勤務医でいるという覚悟の方であれば、やはり5年位のスパンで考えられる方がよいのではないでしょうか。
みんなの転職動機 Q&A
個人的な環境の変化による転職において、結婚や出産、ご主人の転勤などが影響を与える場合、歯科医師は勤務体制を調整する必要があります。たとえば、結婚や出産による場合、非常勤勤務や時短勤務への移行が一般的です。ご主人の転勤による場合は、転居に合わせて勤務先を変更することが考えられます。
女性の歯科医師が増える中で、結婚や出産による退職が減少している理由は、女性の社会進出が進み、働く母親や妻をサポートする制度や環境が整ってきたことが挙げられます。これにより、女性が仕事と家庭を両立しやすくなり、結婚や出産による退職を避ける傾向が強まっています。
スキルアップのために転職する際、保険診療から自費診療への移行がポピュラーな理由は、自費診療が高収益なためです。歯科医師は自費診療の技術や知識を身につけることで、給与の向上やキャリアの発展が期待できます。
転職によるミスマッチは、適性や志向と勤務先の環境や文化の不一致を指します。歯科医師が自身のスキルや経験に合わない職場や、働き方や価値観が異なる職場に入ることで、ミスマッチが生じる可能性があります。
転職のタイミングは、歯科医院の規模や状況によって異なりますが、一般的には3年から5年が適切とされます。これにより、歯科医師は一定期間の経験を積んでから次のキャリア段階に進む準備ができます。
まとめ
要するに、一言に「転職の時代」と言えども、内容によって大きく印象が変わるということです。
一回のミスマッチ就職(転職)は許容範囲です。しかし何度もミスマッチ転職を繰り返すと、
と不信に思われます。
自分では「キャリアアップ転職」のつもりでも、その期間が短すぎるのも良くありません。人から見ると「キャリアアップ」とは思われず、
と思われます。
同じ職場で、同じ立場で20年近く働いていると、
と不信に思われます。しかし、同じ医療法人内で長く勤務していても、5年~10年の間に分院長などキャリアがアップしていれば、それは好印象になります。
「転職の時代」とはいえ、フラフラとあちこちの歯科医院に転職するというのではなく、「キャリアアップ転職」を自分自身でしていくという時代になっています。