一般的に歯科医師の多くはキャリアの途中で開業を目指す人が多い傾向があります。歯科医師は医療提供者であると同時に、経営者としての役割を持つことが可能であり、独立して自身の診療スタイルや働き方を築くことができる点に魅力を感じる人が多いようです。
目次
「医師」と「歯科医師」開業志向に違いがある
「医師」と「歯科医師」では、開業に対する志向や理由に違いがあります。それぞれの職種の特性や業界の状況が影響していると言えるでしょう。
(医科は診療科目によって大きな違いが出ます。ここでは、医科と歯科を比較した場合という観点であることをご理解下さい)
1. 業界の競争環境
医師 : 医科のクリニックは特に都市部では競争が激しく、また広告規制が厳しいため 集患に苦労することが多いです。また、大病院や総合病院での勤務が安定したキャリア選択肢となることが多く、そこでの地位や役職も目指しやすいため、勤務医としてのキャリアを続ける医師が多いといえます。
歯科医師: 一方で、歯科業界は広告が比較的自由であり、歯科医院の数も多いことから独立開業することで自分の特色を打ち出しやすく、集患もしやすい環境です。このため、歯科医師は開業志向が強い傾向があります。また、歯科医院の開業には多額の初期費用がかかるものの、設備投資や治療費が明確で収益の見通しが立てやすいこともあります。
2. 専門性とサービスの違い
医師 : 医師は多くの場合、特定の専門分野に特化しており、患者さんが診療所に行く際も診療科を選んで受診するケースが多いです。また、急患や夜間の対応が求められることもあり、個人クリニックの負担が増える傾向があります。
歯科医師: 歯科医師の場合、総合的な歯科治療の提供が可能であり、定期的なメンテナンスや美容目的での来院も多いため、安定した集患が見込めます。また、夜間診療や緊急対応が医科に比べ少なく、自分のペースで働けると考えられるため、独立して開業する利点が多いと考える歯科医師も多いです。
3. 勤務環境とライフスタイル
医師 : 勤務医としての待遇や福利厚生が充実している病院も多く、医師にとって大病院でのキャリアアップは魅力的な選択肢です。加えて、病院勤務では最新の医療技術や機器が使用でき、チーム医療の経験も積むことができるため、勤務医としての魅力が大きい傾向にあります。
歯科医師: 歯科医師の場合、視力の低下や体力の限界もあり、長期間にわたる勤務医生活に不安を感じることが多いです。そのため、早い段階で独立を考え、ライフスタイルに合わせた働き方を求めて開業する歯科医師が多いといえます。
4. 経済的な見通しと開業リスク
医師 : 医科のクリニック開業には、多額の資金が必要であるほか、運営には長期的な計画と資金繰りが求められるため、リスクが高いと感じる医師が多いです。また、専門性が高い医師ほど開業可能な地域が限られることもあり、計画が慎重になります。
歯科医師: 歯科医院は、定期的なメンテナンス患者や美容診療が見込めるため、比較的安定した収入が期待できると考えられ、開業に対するハードルが医科に比べて低くなっています。特に、初期のコストを抑えつつ、安定した収益が期待できるため、開業志向が高まる傾向があります。
医科に比べて歯科は集患しやすい?
歯科は医科のクリニックと比べて広告規制が緩和されているため、自由度が高い広告活動を行える点が集患において有利に働くことが多いです。具体的には、歯科医院ではウェブサイトやSNS、口コミサイト、パンフレット、イベントなどを通じて自分のクリニックの強みや特色をアピールしやすく、患者さんにリーチするための手段が豊富です。
一方、医科のクリニックは法的な広告制限が多く、診療内容や治療効果についての過度な表現や、特定の医師の実績を強調するような広告は規制されています。このため、医科クリニックは宣伝の自由が限られており、口コミや地域での信頼に頼ることが多くなります。
以下、【医科の広告規制が特に厳しいとされるポイント】について説明します。
1. 自由診療の広告範囲の違い
医科: 美容医療など一部の診療科を除き、自由診療の広告には厳しい制限が設けられています。治療効果や安全性についての広告表現は、根拠を求められることが多く、症例数や治療法の「優位性」について過度に主張することが禁止されています。
歯科: 歯科の場合、インプラントやホワイトニングといった自由診療の広告は医科に比べて認められている範囲が広く、比較的詳細な内容の告知が許されています。
2. 治療効果や安全性の表現制限
医科: 治療効果や安全性については、根拠のあるデータや第三者の確認が求められる場合があり、「最新」「最先端」などといった表現も基本的に禁止されています。患者の症例や治療の成功事例をもとにした広告も制限が厳しく、一般的な医科診療の範囲では、具体的な効果を暗示することすら規制対象です。
歯科: 歯科でも治療効果を保証する表現は禁止されていますが、ホワイトニングや審美歯科の広告に関しては、期待できる効果の範囲を示すことが認められる場合が多く、医科ほど厳格ではありません。
3. 口コミや患者の声の利用規制
医科: 医科では、患者の口コミや体験談を広告に利用することが厳しく規制されています。具体的な患者の声を広告に含めることで誤解を招く恐れがあるとされ、SNSや口コミサイトに対しても、医療機関自らがコメントやフィードバックを促進する行為は慎重に扱われます。
歯科: 歯科でも制約はありますが、患者の声や体験談を「参考例」として示すことが認められている範囲があり、例えばホワイトニングや矯正治療の事例紹介としての利用は、比較的許容されている場合が多いです。
4. インターネット広告の制約
医科: 医科の場合、ウェブサイトやSNSでの情報発信においても、宣伝と見なされる表現には厳格な制限があります。特に治療のビフォー・アフター写真や症例写真の掲載には制限があり、内容が広告ガイドラインに抵触しないよう注意が必要です。
歯科: 歯科では、審美的な治療のビフォー・アフター写真の掲載が認められることが多く、特にホワイトニングやインプラント、矯正などの効果を視覚的に示すことが可能です。
5. 公的な認証・評価の表現
医科: 医科の場合、治療方法や医師の技術、クリニックの評価などを宣伝に含める際、公的機関からの認証や明確なエビデンスが求められることが多いです。また、特定の学会での認定や受賞歴も過度に強調して広告に使うことが制限されています。
歯科: 歯科でも同様の制限はありますが、医科ほど厳しくはなく、例えば「認定医」といった表現は、比較的広告で利用されやすいです。
6. 専門外診療に関する表現の制約
医科: 医師が専門外の診療科目を広告に掲載することには非常に厳格な制限があり、特に専門性が強く問われる診療科目(例:美容外科、心療内科など)は慎重な表現が必要です。患者の誤解を防ぐため、診療内容を限定的に表示することが求められます。
歯科: 歯科では、一般歯科や矯正、インプラントなどが包括的に広告できるため、医科に比べて幅広い範囲での宣伝が可能です。
これらの規制は、患者の健康や安全を守るために必要とされていますが、医科は特に「誤解を招く表現や誇大広告」のリスクが高いと見なされているため、歯科と比べてより厳しい基準が設けられています。
集患のしやすさが開業志向に繋がっている
広告によって患者を集めやすいことが、歯科医師の開業志向に繋がっているとも考えられます。
1. 広告による自由診療の訴求が可能
歯科ではインプラント、ホワイトニング、矯正治療など、自由診療の割合が高く、これらの治療は患者にとって選択肢が多様です。自由診療の範囲が広いため、広告でその治療の効果や費用のメリットを伝えることができ、集患に繋がりやすいです。
特に審美歯科や矯正などは「見た目の改善」を前面に出しやすく、ビフォー・アフターの写真や症例を使った訴求が可能です。これにより、患者が具体的な治療効果をイメージしやすくなるため、集患しやすくなっています。
2. 地域密着型広告が可能
歯科クリニックは地域密着型の診療スタイルが多く、近隣住民をターゲットにした広告が非常に有効です。フリーペーパー、地域のチラシ、ウェブサイト、SNSなど、幅広いメディアを通じて近隣の患者にアプローチしやすく、集患力を高めています。
また、「〇〇エリアの歯医者」という形で地域名を使ってSEO対策を行うことも一般的で、Google検索結果で地元の患者が目にしやすい仕組みを構築することも可能です。
3. 広告規制が医科より緩和されていることの影響
歯科は医科に比べて広告規制が緩和されているため、診療内容を伝える際の自由度が高く、広告で診療内容の特徴を強調しやすいです。例えば、インプラントやホワイトニング、審美治療の「痛みが少ない」「最新技術」などの表現が認められるため、患者の興味を引きやすくなります。
特に新規開業の際には、この広告自由度を活用してクリニックの認知度を高め、競合との差別化を図ることで、早期に患者数を安定させる戦略を取りやすいです。
4. 口コミやSNSによる広がりの効果
歯科では患者が感じた治療体験や成果を口コミやSNSに投稿しやすく、患者の体験談が自然と集患に繋がることが多いです。歯科の治療は見た目に変化が現れるケースが多いため、患者が治療結果をシェアしやすく、特にホワイトニングや矯正の「ビフォー・アフター」のようなビジュアル的な内容が拡散されやすいです。
このような自然な宣伝効果が期待できるため、広告の他にも口コミを活用した集患がしやすく、これが開業への魅力の一つとなっています。
5. 開業資金の回収見込みが立てやすい
広告を活用した集患により、歯科クリニックの経営が早期に軌道に乗りやすく、初期投資の回収見込みが立てやすいことも、開業志向を後押ししています。特に自由診療が順調に増加することで、収益を高めやすくなります。
安定した集患が見込めると、医科と比較して歯科開業のリスクが低く感じられることも、歯科医師が開業を考える要因となっています。
「医科」と「歯科」 診療形態の違い
「医科」と「歯科」では、診療形態にいくつかの違いがあります。
1. 診療内容の多様性
医科: 主に身体全体を対象として病気やけがを診断・治療します。内科、外科、小児科、皮膚科、耳鼻咽喉科、眼科など非常に多くの診療科があります。専門分野ごとにクリニックが独立して運営されることが一般的です。各分野で高度に専門的な知識や技術が必要とされるため、患者も特定の症状や疾患に応じて、専門のクリニックに通うことになります。
歯科: 口腔、歯、歯周組織、および顎関節に関する診療を行います。また、見た目(審美)に関する治療も行う点が特徴です。主に一般歯科、小児歯科、矯正歯科、口腔外科、インプラント、審美歯科といった分類がありますが、ほとんどの歯科クリニックがこれらの治療内容を一つの施設で提供しています。その理由として、歯科の診療内容は口腔内とその周辺に特化しているため、専門性を持ちながらも広範囲に対応できるよう設計されている点が挙げられます。
2. 予約システムの違い
医科: 一般的に予約を必要としない診療形態が多く、飛び込みの患者も受け入れるケースが多いです。特に内科や小児科では、急な体調不良に対応するために、予約なしでも診察できる体制が整えられています。
歯科: ほとんどの歯科医院では、予約制を採用しています。治療には時間がかかることが多く、患者の診療内容に応じたスケジュール管理が必要なため、計画的な予約システムが整備されています。
3. 緊急対応の必要性
医科: 医科クリニックは、急性の症状や救急対応が必要な患者も多いため、迅速に診療を行う体制が求められることが多いです。急患に対応するため、医科クリニックの待機体制や設備が重要になります。
歯科: 歯科でも痛みや緊急を要する症例はありますが、医科に比べて緊急度が低く、対応が遅れることで生命の危機に陥ることは稀です。
4. 通院頻度と期間
医科: 医科では、慢性疾患や定期的なフォローが必要な病状(糖尿病、高血圧など)の場合には、継続的な通院が必要ですが、急性疾患や予防接種、定期健診など、患者は一度の診察で治療が完了する場合も多いです。
歯科: 歯科では、虫歯治療、矯正、定期的なクリーニングなどで複数回の通院が必要になることが多いです。治療が複数回に分かれることが一般的で、1~2週間おきに診療を受ける患者が多いですし、矯正治療やインプラント治療などは年単位での通院が必要です。日常的な予防ケアや定期検診、軽度な治療を中心とした診療が多いため、患者と長期的な信頼関係を築きやすく、地域密着型の医療サービスを提供できるのが特徴です。
5. 診療報酬と治療の自由度
医科: 保険診療が主流であり、健康保険適用範囲の治療が多いです。ただし、美容医療や自由診療など、保険外のサービスを提供する医科も増えています。
歯科: 保険診療と自由診療の比率が医科より高く、インプラントや審美歯科(ホワイトニングなど)など、患者のニーズに応じて幅広い自由診療が提供されます。そのため、治療内容の選択肢や費用が患者ごとに異なるケースが多いです。
歯科医師としての人生設計
歯科医師として「視力」は非常に重要です。特に歯科治療では精密な作業が多く、視力の低下は直接的に仕事の質や効率に影響します。そのため、視力が低下することで、長期的に勤務医として働き続けるのが難しくなることがあります。そのため早い段階で開業をし、経営の方に回りたいという人も多いようです。
勤務医の場合は他の条件(勤務時間や負担、働き方の自由度など)が制限されるため、開業して自分のペースで仕事をしたいという動機が高まるのは理解できます。開業すれば、無理のないペースで働けるため、視力に負担がかかるような過酷な条件を避けやすくなるという利点もあります。
「歯科医師」開業すれば収入もアップする?
一般的に、歯科医師は開業することで収入が上がる傾向があります。もちろん、収入は地域のニーズや診療内容、経営力などによって大きく変わるため一概には言えませんが、いくつかのポイントから収入が上がりやすい理由が見えてきます。
1. 自費診療の取り入れ
開業した歯科医院では、保険診療に加えて自費診療を提供することができ、これにより収入の幅が広がります。ホワイトニングやインプラント、矯正歯科など、自費診療の需要が高い分野を積極的に導入することで、保険診療のみの歯科医師よりも収入が高くなることが多いです。
2. 診療方針の柔軟性
開業することで診療時間や診療内容、料金設定などを自分で決定できるため、患者ニーズに応じた柔軟なサービスを提供しやすくなります。これにより、地域に根差した安定的な収入源を確保しやすくなり、収入が向上する可能性があります。
3. 収入の直接管理
歯科医院を開業すると、診療報酬や収入の管理が自分の裁量に依存するため、経費を抑える工夫や効率的な経営ができれば、その分だけ利益が上がりやすくなります。
4. 収入の上限を引き上げやすい
勤務医の給与は固定または歩合による制限がある場合が多いため、収入には限界が出やすいです。一方で、開業歯科医師は患者数の増加や診療範囲の拡大によって収入の上限を引き上げやすく、収入アップが期待できる環境にあります。
ただし、開業には初期投資(設備費、内装費、広告費など)がかかり、返済が伴うこともあります。また、開業後も経営が順調に進まないと収入が安定しないリスクもあるため、必ずしも「開業=高収入」とは限りませんが、うまく経営を行えば収入を伸ばせる可能性は高いと考えられます。
医科と歯科の開業にかかる資金
初期費用 | 設備費用 | 内装費用 | |
歯科 | 3,000万円~5,000万円 | 歯科ユニットは1台あたり200万円~500万円程度で、CTやデジタルレントゲンなどが必要な場合はさらに数百万円~1,000万円程度の追加コストがかかります |
歯科は診療空間を患者にとってリラックスできる環境に整える必要があるため、内装に力を入れる傾向があり、1,000万円程度の費用がかかることが多いです |
内科 | 2,000万円~3,000万円 | 基本的な診療設備に加えて、心電図、血圧計、エコー(超音波検査機器)などが必要で、設備費用は数百万円~1,000万円程度。内視鏡などを導入する場合にはさらに高額になります | 一般的に歯科よりシンプルで、1,000万円前後が目安 |
小児科 | 2,000万円~3,500万円 | 内科に似た機器に加え、予防接種や乳児健診用の設備も必要になります。設備費用は500万円~1,000万円程度です | 待合室や診療室を子供がリラックスできる空間にするため、内装費用がやや高めになる傾向があり、1,000万円~1,500万円程度 |
耳鼻咽喉科 | 3,000万円~4,500万円 | 耳鼻咽喉科専用の診療台や、内視鏡、吸引器、耳鼻咽喉科専用機器などが必要で、設備費用は1,000万円~1,500万円ほど。場合によってはCTやエコーも必要になることがあります | 一般的な内科と同程度で、800万円~1,200万円程度 |
整形外科 | 4,000万円~7,000万円 | レントゲン装置や超音波、骨密度測定装置などが必要で、設備費用は1,500万円~3,000万円程度です。また、リハビリ用の機器やベッドも必要になるため、さらにコストがかかります | リハビリ用のスペースが必要なため、1,500万円~2,000万円程度と高めになります |
皮膚科 | 2,000万円~4,000万円 | 皮膚科は比較的簡単な診療設備で運営できるため、設備費用は500万円~1,000万円程度。ただし、美容皮膚科も兼ねる場合は、レーザー機器や高周波治療器などが必要になり、さらに1,000万円~2,000万円が追加でかかることがあります | リラックスできる空間を提供するため、内装費用に1,000万円程度かかることが多いです |
眼科 | 4,000万円~6,000万円 | 眼科専用の診療台、眼底カメラ、視力検査機器、スリットランプなどが必要で、設備費用が2,000万円~3,000万円程度かかります。手術を行う場合はさらに費用がかかります | 診療室や待合室の設計により異なりますが、一般的に1,000万円~1,500万円程度です |
【開業志向の比較】Q&A
広告規制が緩く、患者の定期メンテナンス需要があり、収益の見通しが立てやすい環境が挙げられます。
歯科医師は視力や体力の負担を減らすために自分のペースで働ける独立を目指しやすいです。
歯科はインプラントやホワイトニングなど自由診療の訴求が可能で、治療効果を具体的に伝えやすいです。
歯科は地域住民を対象にした広告が効果的で、検索エンジンの地域対策も活用しやすいためです。
自由診療の導入や診療方針の自由度を活かして、患者ニーズに合わせた柔軟なサービスが提供できるからです。
まとめ
歯科クリニックの開業資金は医科に比べて高いとはいえ、集患をしやすいということから、安定した収益が期待できたり、開業によって視力に負担がかかるような過酷な条件を避けやすくできる。こういった要因が「歯科医師」の独立志向を高めているのかもしれません。