歯科医師の就職先を探すのは簡単なようで大変難しいのをご存知ですか?一般企業のようにただ働く事だけが目的ではなく、歯科業界は、「職場」であって「学校」のような学びの要素もあり、「家族」のような濃密な人間関係も含まれています。また経験年数によって選ぶポイントも全然違います。ここでは、仕事を探している人がどういった事に着目して探しているのかを、新卒の方と、キャリア転職の方に分けてご紹介させて頂きます。
目次
仕事を探す方法
就職・転職を考えた時に仕事を探す方法にはいくつかあります。
1 転職サイトの求人票を見て、自分で探す。
2 エージェントを通して希望の歯科医院を紹介してもらう。
3 知人や先輩に相談・紹介してもらう。
4 スカウトメールを受ける。
これらの方法にはメリット・デメリットがあります。
求人票を見て、自分で探す
メリット ・・・ タイムロスがなく自分のペースで探すことができます。
デメリット ・・・ 求人票には良いことしか書かれていないので、本当のところが
わからず、実際面接に行ってみたら希望と全然違う事も多い。
ネットに多くの求人広告掲載がありますが、悪い情報や安いお給料を記載したとしたら、求職者は応募するでしょうか?例えば多くの歯科医院が「新卒 月給30万円」と記載している中で、自分の歯科医院だけ「月給25万円」と記載したら、応募者の数は激減するはずです。もし検索で「30万円以上」をチェックする求職者がいたとしたら、求人票は見てもらう事すらできなくなります。となると周りと同レベルにするか、目立つためにより良い条件を記載するでしょう。
「高給」「休みが多い」「人間関係が良い」「早く終われる」「有休消化率100%」
多くの求職者が気にしているこのようなワードをちりばめた求人票が掲載されているのは当然という事になります。
エージェントを通して紹介してもらう
メリット ・・・ 自分の希望に合ったところを紹介してもらえ、医院の情報な
ども詳しく聞ける。
デメリット ・・・ エージェントを通して医院に連絡を取ってもらうためタイムロ
スが出来る。
エージェントを通してコンサルタントについてもらうメリットは、医院の情報を詳しく教えてもらえる点です。また、歯科医院というのは医院によって特徴があります。そういった特徴はなかなか公開されている求人票ではわかりません。たとえば、人によっていろいろと性格は違いますが、「ノリの良い社交的な人」が「おとなしくて真面目だけど黙々と仕事をする院長」の医院に入職した場合、もちろん逆のパターンもありますが、これは夫婦で言うならば「性格の不一致」という事になり、「離婚」の原因となります。
こういった「性格」のような部分は求人票にはかかれていないため、コンサルタントの腕の見せ所といえるかもしれません。多くの歯科医院の性格を知っているコンサルタントを活用出来たら、無駄な面接の時間を失くすことが出来ると言えるでしょう。
知人や先輩に相談・紹介してもらう
メリット ・・・ よく知っている知人・先輩の紹介なので安心できる。
デメリット ・・・ 知り合いの関係もあって、断ったり、退職したりしにくい。
先輩や知人に紹介してもらったり、働いている人に誘われたりするのは、安心できるという面では非常に良いと思いますが、お給料などの条件が悪くても交渉したり、退職を言い出しにくい面があります。特にクラブの先輩というのは、慣れていて安心という反面、辞められないという人が多く、一度そういう経験をされた人は、知人や先輩の関係がない所に行きたいといわれる方も多いです。
スカウトメールを受ける
メリット ・・・ 医院の方からアプローチしてきたので、優位な立場で面接に行ける。
デメリット ・・・ やみくもに一括でスカウトメールを送っている歯科医院も多い。
最近、スカウトメールが多く利用されています。もちろんスカウトメールで採用できたという歯科医院もありますが、やみくもに一括で同じ文章を送っている歯科医院も多いですし、外部の採用担当者が請け負ってメール送信している場合もあります。少しでも多くの方に面接・見学に来てもらいたいと思う医院は求職者の希望など全く無視してスカウトメールを送りつけています。実際、求職者から以下のような話を聞いたことがあります。
・ 一度お断りした人にも関係なく「是非ご連絡下さい」と送りつける。
・ 外来希望の求職者に対して、面接に来てから訪問診療を勧める。
・ 便利な場所にある医院でスカウトをして、面接に来てから遠い分院勤務を勧める。
・ 新卒でまだ保険診療も十分に出来ない先生に、即戦力を探している医院がスカウトメー
ルを送る。
スカウトメールが来たのでと面接に行ったけど結局自分の希望と全然違ったという場合も多くあるようです。
人それぞれ選び方はありますが、自分にあった方法で就職先を見つけるのが一番です。「採用されること」が最終の目標ではありません、一番重要なのは、長く気持ちよく勤務が継続できる歯科医院を探すことが大切です。
新卒(臨床研修明け)就職の場合
新卒(臨床研修明け)ドクターのレベルというのはほぼ皆さん同じくらいで、おそらくほとんどの方がまだ何もできないと言うレベルではないでしょうか。「まずは保険診療が出来るようになりたい。」というのが共通の目標だと思います。そういった新卒(臨床研修明け)ドクターが希望する医院は以下のような医院です。
・ 教育体制が充実している
・ 研修カリキュラムがしっかり組まれている
・ 年齢の近い先輩勤務医がいる
・ 同じ大学出身の先輩がいる
・ (女性ドクターの場合)女性勤務医がいる
・ 院長が優しい医院
・ 人間関係が良い医院
・ 自宅から30分程度の通勤距離
まずは馴染める環境があって、学校の延長線のように同期や先輩たちと一緒に学んでいける医院といったところがポイントのようです。
勤務医が在籍していない医院のメリット
新卒(臨床研修明け)ドクターのほとんどの方が希望される条件として、「勤務医の先生が数名いる医院がいい」と言われます。理由としては、院長に聞きにくいことも年齢の近い勤務医がいたら聞きやすいという事でしょう。
それは確かにそうだと思います。しかし、勤務医が在籍していない院長と二人ドクターの歯科医院にも良いところはたくさんあります。下記にあげたポイントは、実際に院長と二人で勤務した経験をお持ちの先生にインタビューしたときの話です。
・ 院長を独り占めできる。
・ 身近に院長がいるため、わからないことがあればすぐに直接聞くことが出来
る。
・ 一人しかいないので、可愛がってもらえる。
・ 自分の努力次第で、ステップアップしていける。
決まったカリキュラムに沿ってステップアップしていくのも良いですが、自分だけの成長度合いを見て教えてもらえるというのは大きなメリットだと思います。若い院長の医院であれば、ついこの間まで院長も勤務医だったという事も多いので、自分自身がわからなかったこと、自分自身が良かったこと、嫌だったことを良く理解された上で育てていきたいと思われている院長も多いです。
たしかに、診療中は院長自身が患者の治療をされているため、なかなか手取り足取り教えてもらえるかといえば難しいと思います。そのため、受け身タイプの方にはあまりお勧めできませんが、どんどん院長に質問していける積極的な方であれば良いかもしれません。
「勤務医が在籍している医院がいい」という意見にただ同調するのではなく、自分自身がどういう性格なのかなどを考えて医院を選ばれることをおすすめ致します。
キャリア転職の場合
では、キャリア転職(2回目以降の転職)の方はこれがどのように変化しているのでしょうか? 研修明けの新卒ドクターの就職と違って、キャリア転職となると色々なパターンの方がおられます。まずは転職を考えておられる理由から見ていきましょう。
なぜ「転職」するの?
・ 最初に就職した勤務先が自分には合わなかった。
・ 保険診療がある程度できるようになったので、次のステップとして自費治療
を学べるところに行きたい。
・ 専門性のある医院に行きたい。
・ 保険診療、自費診療ともにある程度できるようになったので、開業前に経営
やスタッフ管理などを学びたい。
・ 開業は考えていないので、キャリアアップしたい。
以上のような理由で転職をされる方が多いようです。「就職した勤務先が自分に合わなかった」という場合は、たいてい1年目くらいで転職されます。この場合の転職はほとんど、スキルアップが出来ていない場合が多く、研修医明けの就職と同じようなレベルからやり直しといった感じの方が多いようです。
3年目位で転職を希望される方は比較的、保険診療が一定のレベルまで完成し、自費診療にステップアップしたい方になります。このレベルでの転職は医院側の需要も高く、歯科医師として一番充実している時だと言えるかもしれません。
保険診療・自費診療ともにある程度問題なくこなせるようになった方は、開業が目前に迫ってきます。ここでの転職の場合、開業までの数年という比較的短期間になるのが特徴です。採用する医院側もまずお給料が高くなるのと短期間で退職になることが分かっているため、少々引いてしまう傾向にあります。そのため非常勤で勤務されることを選ばれる方も多いです。開業前に、経営・スタッフ管理を学びたいということで分院長を経験したいと希望される場合もありますが、どちらにしても雇用する側としては短期勤務になることからあまり望まれる状況ではないところが現実的なところですが、その反面、即戦力で働いてもらえるという安心感はあります。
最後に、キャリアアップのために転職したいが、開業をする気はありませんという方についてですが、治療に関してもある程度問題なくこなせ、将来的には開業は考えていませんという方を医院は非常に欲しています。最近は院長の個人医院だけというよりは、法人化して分院を増やしていく傾向にあるため、開業をせずに分院長として長く勤務してくれる人を採用したいという傾向にあります。
「キャリア転職」の人は何に着目しているの?
以上のような転職パターンを前提に、キャリア転職の方はどういった歯科医院を希望されているのでしょうか?
・ インプラントなど自費診療を学びたい
・ マイクロスコープなど最新設備が完備されているところ
・ 患者数・症例数が多いところ
・ 開業のための経営やスタッフ管理を学びたい
・ お給料が高いところ
ある程度自分のスキルが固まってきているため、環境よりも技術向上に着目される方が多いのと、年齢的にも家庭を持たれる方が多くなってくるため、金銭的な条件が高くなってきます。
「担当医制」について
「この医院は担当医制ですか?」という質問をよくされます。「担当医制」がよくて「担当医制でない」医院は良くないように思われている方もおられるようですが、どちらにもメリット・デメリットがあることを理解しましょう。その上で、自分に合う方を選ぶことをお勧めします。
「担当医制」メリット・デメリット
同じ患者さんを継続して治療することでより責任感が生まれ、トラブルなく安全な治療を提供できる。
来院日の変更等がしにくく、患者さんの都合に合わせる必要が出てくる。
担当医制であることのメリットはたくさんあります。患者様との信頼感や責任感が生まれることはもちろん、その患者さんの状況を深く知ることが出来るため、より良い治療が出来てトラブルを回避することもできます。患者さんにとってもメリットになることは多くあります。しかし、良い面ばかりとは言い切れません、もちろん相性が合わない場合もありますし、何よりも担当の患者さんの都合が優先的になるため、勤務状況が制限されることも出てきます。そのため、常勤医でないと担当医制にしづらいと言う状況が出てきます。
「担当医制でない」 メリット・デメリット
・ 休日など取りやすい。
・ どんな患者さんでも対応できるスキルが身につく。
・ 責任感が薄れる。
「担当医制でない」デメリットとしては、色々なドクターが担当するため、どうしても自分自身の責任感というものは薄れてしまいます。ただ、それがメリットになる場合もあります。「担当医制だとどうしても休みにくいので担当医制ではない医院が希望です。」と言われた子育て中の女性ドクターもおられました。また、担当医制でないという事は前回治療した先生がどのような治療をされたのかという事もカルテから読み取り、対応する力が必要になります。逆に自分が治療した状況を次の先生に見られるという事にもなります。どのような状況でも対応する力と、誰が見てもわかりやすい治療、カルテ記入というスキルがつくのも「担当医制でない」メリットといえるでしょう。
自分が今どういったスキルを伸ばしたいのか、伸ばすべきなのかをしっかり考えて選びましょう。
就職・転職の選び方 Q&A
エージェントを通して紹介してもらうと、自分の希望に合った歯科医院を紹介してもらえます。また、医院の詳細な情報を聞くこともできます。
求人票には良いことばかりが書かれているため、実際の状況がわからず、面接に行ってみると希望と異なることが多いです。
メリットは、医院の方からのアプローチで面接に行ける立場が優位であることです。デメリットは、同じ文章を一括送信する医院や求職者の希望を無視して送りつける医院も多いことです。
教育体制が充実しており、研修カリキュラムがしっかり組まれている医院や年齢の近い先輩勤務医や同じ大学出身の先輩がいる医院、女性ドクターや優しい院長がいる医院、人間関係が良い医院、通勤距離が30分程度の医院が希望される傾向があります。
キャリア転職の方は、自費診療や専門性のある医院、患者数・症例数が多い医院、経営やスタッフ管理を学べる医院、高い給料がもらえる医院を希望する傾向があります。技術向上や経済的な条件が重視されます。
まとめ
如何でしたでしょうか? 多くの方が同じようなことを希望されますが、「正解・不正解」はありません、しっかり内容を理解した上で自分が求めているものは何か、自分に合っているのはどんな職場かを見極めてやりがいのある歯科医院を選ばれることをお勧め致します。