「転職」の際の失敗についてお話をしたいと思います。何度も何度も「転職」を繰り返してしまう人がいます。3~5年働いて、ステップアップのために転職をするのは良い事ですが、短期間で転職を繰り返すと、本人はもちろんですが、次の就職の際にも不利になってしまいます。そのため「ま、勤務してみて、駄目だったらまた辞めて次を捜せばいいか、働いてみないと分からないから」という簡単な考え方はお勧めできません。
慎重に、でも慎重すぎて一歩を踏み出す機会を逃さないようにして下さい。
目次
転職が多いと不利?
面接の際に履歴書で一番チェックされるのは転職です。3~5年働いてスキルアップのために転職をするのは好印象ですが、1、2年毎に転職を繰り返しているような人は不信感につながります。
面接後、院長から「この人、1年毎(2年毎)に転職しているよね。何かあるのかな?うちに入職してもまたすぐに辞めるんじゃないかな?」という相談はよくされます。それほど、転職回数や勤務期間というのはチェックされる部分だと思って下さい。
試用期間の3ヵ月で転職を繰り返している人が、試用期間なので履歴書に書かなくてもいいですかと質問される場合があります。履歴書に嘘を書くことは、経歴詐称ですが、記載しないことは問題ないとされています。ただそれも前後の繋がりを考えた方がいいかもしれません。
例えば体調不良などで1年間休職をした後、勤務を開始したが、試用期間中に退職したという場合であれば、あえて記載しなくても、休職期間という形にしておけば不自然ではありません。
しかし、休職する理由が全くないのに、前職を退職した後、いくつかの歯科医院で試用期間の勤務を繰り返し辞めた場合、たとえば前職の退職から約1年が空白になってしまったとします、その履歴書を見た院長は、「健康な体で特に何もないのに、この1年何をしていたのだろう?」と思うでしょう。実際には短期間と言えども勤務をしていたのに、歯科医師として手を動かしていなかったとなると、どちらの方が不利になるかは難しい所です。
ということで、「転職」はしっかり考えて決断する必要があるということです。
退職理由
スキルアップ転職や、環境の変化に伴う退職は良しとして、それ以外で退職に至る理由には以下のようなものがあります。これは実際に歯科医師の方に聞いた内容で思いつくものを挙げてみました。
1. 給与に対する不満
2. 勤務時間・休日に対する不満
3. 人間関係・医院の雰囲気
4. 院長との考え方の違い
5. 体調不良
給与に対する不満
給与に対する不満は、もう少し詳しく分けてみると次のようになります。
1. 給与の支払いが遅れる。
2. 給与が極端に少ない。
3. 何年たっても給与が上がらない。
給与に関する不満というのは、労働基準法などがしっかりしてきたため最近ではかなり減っていると思います。
「1. 給与の支払いが遅れる」なんてあるのかと思われる方もおられるかもしれませんが、実際「給与の半分だけ渡して、残りの半分は少し待ってほしい」というようなことを言われたという話は聞いたことがあります。医院経営が上手くいっていないということで、こういうことを言われた場合は即刻退職する方が良いでしょう。
「2. 給与が極端に少ない」これは確かにあります。まず新卒の方であればまだ戦力にはならない上に、教育をしなければいけないという考え方をしている院長はたくさんおられます。それでも最近では先行投資として一定ラインの給与を提示している医院が多いのですが、新卒にそんな高い給与は出せないという理由でかなり低めの給与設定をされている医院もあります。しかし、嘘をついて支払われないということはないため、入職前にしっかり確認しておけば特に問題や不満になることはないでしょう。
しかし、たまに、経験者であるにも関わらず歯科助手程度のお給料しかもらえないという話を聞いたことがあります。院長の言い分も色々あるようですし、本当のところどちらに非があるのかは、わからないです。給与が極端に少ないということよりも他に問題がある場合もあるので、理由を考えた方がいいかもしれません。
「3. 何年たっても給与が上がらない」という話はよく聞きます。入職してすぐのお給料に関しては、求人内容の虚偽になってしまうため院長も注意をしておられますが、数年たってもお給料が全然上がらないということはよくあるようです。最近では、「昇給はありますか?」と最初に確認される方も増えています。ただ、歯科医師という職業は、普通のサラリーマンと違って勤務年数と共にベースアップしていくというものではないため難しい所ではあります。「何年勤務しているのに、これだけの給与」という判断をするよりも、実際自身が挙げている保険点数・自費金額と比較して交渉する方がいいと思います。そのため最近では「歩合給」にするところが増えています。
勤務時間・休日に対する不満
給与と同様、こういった労働条件に関する問題は「労働基準法」が厳しくなっているため、かなり減っていると思います。一昔前のように、残業が多い、有給休暇が取れないということもほとんどないと思います。ただ、
・ 仕事は終わっているのに、ダラダラとみんなが話をしていて帰れない。
・ 日曜日に院長が勧める自己啓発セミナーに行かされる。
といった話は聞いたことがあります。きちんとした勤務時間や休日に関しては入職前に確認できますが、その後の雰囲気といったあいまいな部分は実際働いてみないと分からない部分が多いでしょう。日曜日は行けませんとはっきり言えば良いと言ってしまえばそれまでですが、確かにその場の雰囲気や院長の性格などもあって断りにくくズルズルと我慢していかなければいけないということもあるようです。
人間関係・医院の雰囲気
人間関係を理由に退職を希望される方が一番多いです。しかしながら見抜くのはとても難しいと言えます。求人票を穴が開くほど見ても、医院の雰囲気や、人間関係はわからないですし、求職者である歯科医師の先生自身が自分の性格を理解できていない場合が多いからです。また、もともとはこういう性格ではなかったけど、医院で勤務することによって性格が変わる場合もありますので、何が正解というのはありません。
また、スタッフとの相性もあります。そのため最近の歯科医院では歯科医師の面接・見学の後、スタッフに感想を聞く院長も多いようです。院長は好印象を持ったけど、スタッフの女性たちが嫌がったという場合もありますので、面接・見学の際にはスタッフへの対応も気を配る必要があります。
院長との考え方の違い
院長との考え方の違いを挙げる方も多いです。
1. 院長が勧めるセミナーが、自分には合わない。
2. 経営ばかりに目を向けて分院をどんどん増やしていく院長の考え方と合わな
い。
3. 治療方針が院長と合わない。
院長の考え方を指摘されるのは経験者の方が多いです。これは入職してすぐというよりは、長年勤務しているうちに徐々に院長の考え方が変わってしまったという場合もあるようです。治療のみを考えている勤務医と、経営をしていかなければいけない院長の間に隔たりが出てくるのでしょう。
体調不良
体調不良を原因に退職される方も多いですが、体調不良を引き起こした要因は以上の中にあるのではないでしょうか。自身は頑張ろうと思っていても身体は正直ですから、無理をして我慢していると確実に体が悲鳴をあげるようです。体調不良を理由に退職されてもほとんどの方がすぐに転職をされています。本当に体調不良で入院をしましたという病気の方は滅多におられないです。
不幸な退職をしないために
退職の理由を見て頂いても分かるように、求人票に記載されている内容が問題で退職をする人は比較的少なく、入職してみないと分からない理由で結局退職になってしまうことが多いというのはご理解頂けましたでしょうか? では、不幸な退職をしないためにはどうしたらいいのか?
「ご自身で医院の面接・見学に行ったときに感じる」しかありません。もしくは、転職のコンサルタントにアドバイスを受けるかです。
見学でどんなチェックをすればいいのかということですが、例えば、人には個性があるように、医院にも個性があります。その医院はどういう個性を持っているのか考えてみましょう。
・ 向上心をとても大切にしている医院
・ 仕事とプライベートをしっかり区別している医院
・ 明るく楽しく協調性を大切にしている医院
・ 個人のスキルを重視している医院
ざっくりとこのような分け方をしてみました。決して、良い悪いではないことはご理解下さい。それぞれに良いところがあり、医院の性格と先生ご自身の性格が合致していれば長く気持ちよく働けるということです。
では、もう少し詳しく見てみましょう。
向上心を大切にしている医院
多かれ少なかれ、歯科医師としてセミナーなどに参加をしてスキルアップをしていくのはとても大切なことです。しかし、どこまでそれを重要視しているかという違いは出てきます。日曜日は頻繁にセミナーに参加する。診療後に院内セミナーなどをするという医院も良くあります。また、理事長先生が学会発表するための資料を作成するためにドクターがお手伝いをするという話も聞いたことがありますし、衛生士やスタッフに向けて勉強会をするためにドクターが資料を作たり、教える立場に立つという医院もあります。
向上心を大切にすることはとても良い事ですが、人にはそれぞれ今自分のしなくてはいけない役割や立場というものがあり、やりたくてもできない場合もあります。
一概には言えないのですが、「結婚をして小さな子供がいる先生」などは日曜日ごとに自分だけセミナーに行くのは難しいという人もおられますし、主婦の先生も同じでしょう。またある程度のスキルを持つベテランの先生であれば、今さらスキルアップと思われている方もおられるかもしれません。逆に若手の先生で、どんどん知識を習得していきたいという人もいるでしょう。
先生自身が今どこまでそれを望んでいるかということを見極めなくてはいけません。もし今の自分が重視するものとはちがうのであれば、そこに勤務するのはお互いに不幸になるでしょう。
私がよく求職者の先生に質問するのは、「先生は自分で何でも調べて進んで行きたいタイプですか?」と聞いています。「いや~、言われるままに動くタイプです」とか「受け身のタイプです」という回答だった場合は、セミナーなどを推奨してくれない歯科医院であればスキルアップするために良いセミナーを自分で探す必要があるけれど、先輩や院長が積極的に勧めてくれたり、院内でセミナーをしてくれる医院であれば、それに身をゆだねるだけで、スキルアップできますよというアドバイスをすることもあります。良かったら参考にして下さい。
仕事とプライベートをしっかり区別している医院
こういう医院もあります。特にTOPに立つ院長がそういう性格であれば医院自体もそうなります。お休みは自分の趣味に没頭したいという方もおられますし、仕事は一生懸命するけど、終わったらさっさと帰りたいという方もおられます。最近の若い先生方は、仕事時間中は一生懸命するけど、終わったらプライベートを充実させたいという人も多いです。こういう考え方をしている人は、休みの日も職場の人と一緒に何かをしましょうというような医院を選ぶと少し辛くなってくる可能性もあります。
明るく楽しく協調性を大切にしている医院
若い院長の医院は比較的こういうところも多いです。患者を対象にイベントを行う医院や、院内でクラブ活動をしたり、イベントを催したりということも多く、スタッフで楽しくすることで協調性や仲間意識を高めようという考え方です。確かに若い先生には良いと思いますし、切磋琢磨してみんなで成長していくというのは楽しく成長できるので、苦痛を感じるようなことが少ないでしょうが、これもその人の性格にあっているかによります。
以前、ある歯科医師の面接・見学に同行した際に、見学の時にどういうところを見られているのですかと伺ったところ、「掲示物」をしっかり見ていると言われた方がおられました。その先生言わく、患者さんの見える場所に、歯科医師も含めてスタッフの顔写真や一言コメントなど手作りの掲示物を貼っている医院は、スタッフが診療時間以外の休憩時間にこういう掲示物を作成したりしているのだなと判断するそうで、自分のイメージする職場ではないそうです。
またスタッフが目にする壁に各々の目標などを貼っている歯科医院も自己啓発系で希望とは違うと言われました。朝礼、終礼の時に、読書感想文を一言ずつ述べるような医院や全員でハイタッチをするような歯科医院も自分には合わないと言われた先生もおられます。
このようにテンションが高めの歯科医院は合う人・合わない人がいます。求人内容だけではわかりづらい所ですがこのミスマッチもお互い不幸な結末になるでしょう。
ただ、昔の自分はそういう人間ではないと思っていたけど、そういうところに入って自分が変わったということを言われた方もおられました。患者さんを集めて行うイベントなどあまり好きではないと言われていた女性ドクターも、そういう職場に身をおいて、楽しそうに院内イベントに笑顔で参加されている姿を見ることもあります。
個人のスキルを重視している医院
一から育てていきたいと思っている医院もありますし、経験者を採用したいと思っている医院もあります。
若い院長の医院は自分よりも年下の若手ドクターを後輩として育てていきたいという思いが強いですが、逆に、経験者を優遇しているような医院は、育てる、教育するという意識は薄く、個々の先生が持っているスキルで患者さんを診て下さいというスタイルが多い場合もあります。
器具などが置いてある場所など手取り足取り教えてくれるものだと思って、こういう歯科医院に勤務をしたら、ほったらかしにされたという印象で途端に嫌になってしまうでしょう。放置されても自分から色々な人に質問できる積極性のある方には向いていますが、内向的で構って欲しい人、指示待ちの方には決して向かない医院です。
医院によっては、治療の方針を院長が決めている場合もありますし、逆にどんなやり方でも先生の好きにして下さいと言われる医院もあります。器具や材料も、ある程度先生が自由に購入してもいいところもあれば、医院にある物を使って下さいというところもあります。
個人のスキルを重視している医院は、新卒や若いドクターには向いていないですが、経験豊富なベテランドクターであれば、自分のやり方で治療できるため働きやすいという場合もあります。
不幸な転職 Q&A
はい、転職回数や勤務期間は面接でチェックされる要素であり、多くの場合、短期間での転職は不信感を抱かれます。
一般的には試用期間中の転職は履歴書に記載しなくても問題ありませんが、前後の経歴との繋がりを考慮する必要があります。
医院では、セミナー参加や院内セミナー、学会発表のための資料作成などのスキルアップ活動が行われます。
仕事時間中は一生懸命働き、終わったらプライベートを充実させたいと考える人が多く、休みの日には職場の人との時間を過ごすことが少ないです。
個人のスキルを重視する医院では、経験者の採用や先生自身のスキルで患者を診るスタイルが多いです。教育や指導が少なく、自己啓発に主体性が求められます。
まとめ
如何でしたか? 就職・転職は求人票には書かれていないような「見えない部分」が一番大切です。
「性格の不一致」が起こらないようにするためには、もちろん働いてみないと分からない場合も多いですが、まずはプロのコンサルタントに聞いてみるのも一つの手かもしれませんよ。