現在、歯科業界で転職をする際には、「履歴書」や「職務経歴書」が主要な応募書類として使われています。しかし、海外では一般的な転職のツールとして「ポートフォリオ」が広く利用されているのをご存知ですか?これは、日本と海外の転職文化の違いと言えるでしょう。近年、日本でも変化が起きており、近い将来、歯科業界でも、「ポートフォリオ」は一般的な転職ツールとなるでしょう。
目次
「ポートフォリオ」って何?
「ポートフォリオ(portfolio)」とは、「複数の書類をひとまとめに持ち運べるケース」という意味ですが、転職活動の際の「ポートフォリオ」とは、簡単に言うと「作品集」といったイメージだと思って下さい。
例えば、絵を描く人やWEBデザイナー・ライターなどクリエイター的な仕事をしている人が、転職活動をしたり、仕事の売り込みに行く際に、自分はこういった作風の物を作っていますということが一目でわかるように、自分の作品集などを集めて持参します。これが「ポートフォリオ」です。
一部の業界では当たり前のツールでしたが、最近ではその活用範囲はどんどん広がっています。
「転職」と「ポートフォリオ」の関係
日本ではかつて「終身雇用」と呼ばれる文化が強く根付いており、一度入った企業に長期間勤務することが一般的でした。しかし近年、日本でも「終身雇用文化」はほぼ姿を消し、海外と同じように、「転職」をすることが当たり前になってきました。それもただ、フラフラと色々な企業に転職するのではなく、自分のこれまでの経験や実績を活かして、地位・環境・給与などキャリアアップを目指す必要が出てきます。そこで必要になるのが「ポートフォリオ」です。自分自身のこれまでの経験や実績をまとめた「ポートフォリオ」を相手に見てもらい、自分を売り込む能力が必要となってきます。
「ポートフォリオ」の内容と意義
では、「ポートフォリオ」の内容と、意義についてまとめてみます。
1. 能力と実績の証明
ポートフォリオは、自分がどのようなスキルや能力を持っているか、実際に過去にどのようなことをしてきたかを具体的に証明する内容。
2. 視覚的な訴求力
クリエイティブな職種の人に「ポートフォリオ」が欠かせないのは、自分自身のスキルやセンスを直感的に伝えるためには、文字の羅列ではなく、実際の作品やプロジェクトの見本を視覚的に見てもらうことが最も重要です。
3. 実務経験の具体化
ポートフォリオは、過去の実務経験を具体的に表現するのに役立ちます。どのように問題を解決し、成果を上げたかを示すことができます。
4. 創造力と独自性
ポートフォリオは、自分自身の創造力や独自性をアピールし、自分自身の個性やスタイルを示すことができるため、企業や雇用主に印象を与えることができます。
5. 自身の積極性
ポートフォリオを作成するのは簡単にはできません。これまでの実績や画像をストックすることから始めなければいけません。そういう意味でも、ポートフォリオを提出することは、自分のキャリアアップに積極的に取り組んで努力していることを示します。これはプロフェッショナリズムを示す要素として高く評価されます。
海外では転職の際に、自分自身の「ポートフォリオ」を提出することで、自身の能力と経験を効果的に伝え、競争の激しい転職市場で差別化するための有力なツールとして一般的に利用されているのです。
日本でも「ポートフォリオ」は普及する
日本でも「転職」が当たり前になってきています。「ポートフォリオ」を使って転職するスタイルが今後一般的になるでしょう。もちろんそれはクリエイティブな業界だけではありません。そして歯科業界にも普及してくるはずです。
なぜなら、歯科医師の先生が転職する時の面接の際にこのような質問をされませんか?
・前の歯科医院では1日何人位の患者さんを診ていましたか?
・前の歯科医院はチェアー何台で、歯科医師、スタッフ何名いましたか?
・先生はインプラントはされますか?
・先生はどのような治療が得意ですか?
履歴書を見ながら、必ずこのような質問を面接時にされているはずです。
○○歯科医院 入職
○○歯科医院 退職
△△歯科医院 入職
△△歯科医院 退職
もちろんこう言った経歴も必要ですが、本当に知りたいのは、どのくらいの規模の歯科医院で、どのくらいの治療をしてきたのかということが、面接をしている院長も知りたいのです。そこをまとめるのが「ポートフォリオ」です。
ということで、歯科業界でも「ポートフォリオ」が今後活用されるようになるでしょう。
歯科医師 「ポートフォリオ」構築
歯科医師の場合、具体的にどのような「ポートフォリオ」作ればいいのかということでお話させて頂きます。
実績と成果の強調
過去の実績や成果は非常に重要です。例えば、特定の治療法で患者の治療成功率を向上させたり、患者から高い評価を受けた事例を挙げます。具体的な症例報告書や写真を用いて、視覚的に訴えると相手の気持ちをグっと引き寄せることができます。ここで自身の能力を裏付けましょう。
まずは、これまでの自分の実績を具体的に伝え、そこで自分はどのように働いてきたかを示します。
・ どのくらいの規模の歯科医院で働いてきたのか(チェア数や、スタッフ数)
・ 何を強みにしている歯科医院で働いてきたのか
・ 1日何人位の患者さんを自分は診療してきたのか
・ 自分はどういった治療を実際行っていたのか
次に、スペシャリストとしての実績をアピールします。
口腔外科、インプラント治療、矯正治療、審美歯科、訪問診療などの分野での実績を示すことができます。特定の分野でスペシャリストとしての実績を持つことは、十分なアピールポイントになります。また、これまで自分が行った治療の症例写真や治療成功事例、研究成果などを実際に「ポートフォリオ」にして提供することで、医院が求めている要件に合致していることを示すことができます。
専門的なトレーニングと資格
自分はどういった分野を専攻してきたか、学位、また、これまでに受講してきたセミナーや、それによって取得した資格や認定など、自身の教育背景と専門知識を示しましょう。資格や認定証の写真やコピーを提供することで、信頼性を高めることができます。
コンティニュアス・エデュケーション
歯科医療は常に進化しています。最新の研究、トレンド、セミナー・研修への参加履歴を示すことは、歯科医師にとって、専門知識の更新、スキルの向上、患者ケアの品質向上、ライセンスの維持など、多くの利点をもたらす重要なプロセスです。今なお、自己啓発しアップデートし続けていることを強調することは重要と言えます。
患者へのコミュニケーション能力をアピール
スキルの高さを主張することも重要ですが、患者とのコミュニケーションスキルは採用する医院側としては、非常に重要なポイントです。患者からのフィードバックや評価を収集し、それを「ポートフォリオ」に含めましょう。それによって、優れたコミュニケーションができることを強調し、信頼感を持って患者と協力できることをアピールできます。
職場でのリーダーシップや協調性
歯科はチームプレイであり、どんなに個人のスキルが高くても、協調性に欠ける人は求められません。これまでの職場でのリーダーシップ経験や協力の証拠を提供します。例えば、後輩の歯科医師をどのように指導してきたか、スタッフとどのように接し、協力し、クリニックや病院の効率を向上させたかなどの経験を示します。
個性とパーソナリティ
専門的な歯科医療団体や協会へのメンバーシップを記載して、業界で認められている一員であることを示しましょう。また、国際的な歯科医療経験や、異文化での活動経験があれば、それを強調します。国際的な視野を持つことは、多様な患者と協力する際に価値がありますので、大きなアピールとなるでしょう。患者への思いやりやエンパシー、プロの倫理観など、あなたの人間性を示す要素を追加します。
推薦状
推薦状は信頼性を高め、過去の上司や同僚からの推薦文や参照を提供することができます。信頼性とプロの評判を裏付けるために、可能であれば推薦状なども取り込むと信憑性が高まるでしょう。
転職先での自分の価値
最後に、自分のこれまでの経験・知識・スキルを用いて、転職時に新しい雇用主に対して「提供できる価値」を明確に伝えましょう。「提供できる価値」が相手の求めていないものであれば面接を受ける意味がなくなります。相手がどういった価値を求めており、それに対して自分がどれだけ提供できるかを「ポートフォリオ」に反映させることが出来れば、雇用主の注目を引くことができます。
「履歴書・職務経歴書」と「ポートフォリオ」の違い
「履歴書・職務経歴書」と「ポートフォリオ」は全く違ったものであることはご理解頂けましたでしょうか。
「履歴書・職務経歴書」は基本的な情報を含む重要なドキュメントです。
基本情報(氏名、連絡先、免許情報など)
教育歴(歯科学校、修士号、資格、認定、研究など)
職歴(過去の職場やポジション、雇用期間)
以上のような情報は当然必要なものですので、「履歴書・職務経歴書」と別に「ポートフォリオ」を作成するか、もしくは、「ポートフォリオ」の中に、以上のような内容を入れることも忘れないで下さい。
そして、「ポートフォリオ」はただ、文字を羅列するだけではなく、画像やグラフなど視覚的訴求力が備わったものである必要があります。相手に興味を持ってもらえる「ポートフォリオ」を作ることも重要なポイントです。ただ、自己満足のような「ポートフォリオ」だと逆効果になってしまいますので、注意して下さい。
「ポートフォリオ」についてQ&A
ポートフォリオには自身の能力や実績、実務経験、専門的なトレーニング、資格、コンティニュアス・エデュケーション、コミュニケーション能力、リーダーシップ経験、個性、パーソナリティ、推薦状、転職先での価値などを含めるべきです。
歯科医師のポートフォリオには治療成功事例、症例報告書、患者からの高評価、診療規模、強み、日々の診療数などの実績を強調すべきです。
転職時に「ポートフォリオ」を提出する際、自身の専門知識、スキル、実績、教育背景、資格、コミュニケーション能力、協調性、リーダーシップ経験、個性、パーソナリティ、推薦状、提供できる価値などが重要です。
ポートフォリオの作成は、自身の実績や資格を整理し、写真や症例報告書を収集し、推薦状を取得することから始めることが良いです。それから、情報を視覚的に魅力的な形で整理してまとめます。
ポートフォリオは面接時に自身の実績や能力を具体的に示すために活用されます。面接官に自分を売り込む手助けとなり、印象を強化します。
まとめ
「ポートフォリオ」は近い将来、歯科医師の転職の際に重要なツールとなるはずです。「ポートフォリオ」を作成するためには、データや症例写真などをストックすることから始めなくてはいけないため、簡単に作れるものではありません。ワンランク上の転職活動をする準備を始めて下さい。